足が絡まっても、踊り続ける

映画家になるまでの記録。映画、読書、喫茶店。

ラブホテルで号泣された話

あれはたしか、1年と少し付き合っていた恋人に振られたばかりの大学二年生だった頃の話だ。

 

僕はある筋で知り合った女とラブホテルにいた。なんのことはない、ただ気まぐれか何かのめぐりあわせで、その女と池袋の染み垂れたラブホテルに居た。やけに狭かった覚えがある。快適な間取りではあったが、ラブホテル特有の閉塞感と非日常を感じさせる、その空気には何か強烈な色があった。

 

質素に女を抱いた。可も不可もない。ただ無気力感が一挙に押し寄せる、憂鬱な瞬間があった。

 

行為を終えた僕はベッドでタバコを吸っていると、女がすり寄ってきたので無視した。彼女に対して、好意を抱いていたわけでもなかった。それは女も知っていた。当時の僕はただ疲れていた。生活に、誰かを本気で想うことに。やり場のない不満を発散したかったのだ。それは彼女も同じだったのだと思う。

 

「私のこと、好き?」と女が訊いた。嘘はつけないので「魅力的な女性だとは思う」と答えると、女は泣き出した。驚いたが極めて冷静に、まずそうな匂いをたてるインスタントコーヒーを淹れた。彼女は泣きながらそれをすすった。

 

「私、可愛くないから」と女が言った。嘘はつけないが「そんなことないだろ」と僕が言うと「じゃあ私のこと好きか」とまた訊ねた。「好きになってほしいのか」と応えると「好きな人に好きになってほしい」という女の発言によって会話は堂々巡りに陥った。

 

「彼氏に浮気された」と女は呟いた。それはつらかったね、と一問一答式の様な返事を返す。「私、可愛くないから」また彼女は言った。当初の明るい印象から一転し、彼女はしきりに自信の無さを僕に訴えた。悪いけど。「悪いけど、僕はなにもできない」と言った。女を抱いた後にこんなことを言うのもおかしな話だとは、思わなかった。

 

そのあと、しみったれた居酒屋で飲んだ。なんだか不思議な感じだった。さっき抱いた女の泣き顔が嘘のように明るかった。3つ上で既に社会に出ていた彼女は、お会計を頼むと安いと言って大方出してくれた。自分をどう責めればいいのかわからなくなるほど、奇妙な一日であった。

 

何もできないのに、何か、淡い何か期待の様なものを抱いてしまう自分の浅ましさが、今となっては仕方ないもののように感じてしまうのは、これも不感症であることの証明なのだろうか。

 

僕は、その女とのやり取りを幾度となく思い返す。そのたびに、もっと優しくしてあげればよかったと思わずにいられない。それと同時に、優しくできるはずはなかったとも思う。強く抱きしめることも、涙を拭くこともできない、そんな男にこれから何ができるのか。